取引先や目上の方からの指示に対して使う「かしこまりました」。この言葉は敬意を示すフレーズですが「承知しました」や「了解しました」といった類似表現も多く、TPOに合わせた適切な使い分けに迷う方もいるのではないでしょうか。本記事では、「かしこまりました」の意味や、「承知しました」との違い、使用する際の注意ポイントなど解説します。
「かしこまりました」の意味
「かしこまりました」は、相手からの依頼、指示、命令、またはアドバイスなどの内容をしっかりと理解し、それを謹んで引き受け、受け止めたという意思を伝える表現です。
この言葉は、動詞「かしこまる」に丁寧語の助動詞「ます」の過去形を付けたもので、「謹んで承諾する」という意味合いを持っています。ビジネスシーンでは、上司や取引先からの指示を受けたり、接客業で注文や要望を承ったりする際に、「わかりました」を丁寧に表現する言葉として広く使われています。
「かしこまりました」と「承知しました」の使い分け
「かしこまりました」と「承知しました」は、どちらも「わかりました」「理解しました」という承諾の意を丁寧に伝える表現であり、目上の方に対しても問題なく使用できます。しかし、それぞれの言葉が持つニュアンスの違いによって、使い分けが可能です。
▢ 「かしこまりました」のニュアンスと使い方
「かしこまりました」は、相手の指示や依頼を謹んで受け入れるという、「かしこまる(目上を敬い、つつしむ態度をとる)」という動詞に由来します。そのため、「承知しました」よりも相手への敬意や丁寧さを強く、謹んで引き受けるという柔らかな態度を強調したい場合に適しています。接客業やサービス業など、お客さまに対して最大限の丁寧さが求められる場面で頻繁に使用されます。
▢ 「承知しました」のニュアンスと使い方
「承知しました」は、「承知(わかっている、承諾する)」という言葉に由来し、話された内容や事情を理解・了承の意味合いを強調したい場合に適しています。ビジネスシーンにおける社内の上司とのやり取りなど、「内容を理解したこと」を主に伝えたい場合に適しています。「承知しました」は丁寧語のため目上の相手に使えますが、「承知いたしました」のほうが、よりかしこまった場や、書き言葉として丁寧さを伝えたい場合に適しています。
どちらも丁寧な表現ですが、迷った際には「かしこまりました」を使う方が、相手に一層の敬意が伝わりやすくなります。
「かしこまりました」の使い方
シーン別の「かしこまりました」の使い方をご紹介いたします。
社外の顧客・取引先とのやり取り(接客・営業)
外部の相手、顧客や取引先に対しては、最大限の丁寧さを示すことが信頼関係の構築に不可欠です。
接客時の注文・要望
顧客に対して最上級の丁寧さで応対し、気持ち良くサービスを利用していただくため。
「ご注文、かしこまりました。ただいまお席にご用意いたします。」
取引先からの依頼
相手からの依頼を謹んで引き受けたという姿勢を明確に伝えるため。
「ご提示いただいた納期、かしこまりました。遅延のないよう手配いたします。」
電話での応対
相手の顔が見えない分、より丁寧な言葉遣いで応対するため。
「担当の〇〇はただいま席を外しております。伝言、かしこまりました。」
社内での上位役職者・役員への返答
社内であっても、役員や社長など、特に地位の高い人物からの重要な指示に対しては、「承知いたしました」よりも一段上の敬意を示すことで、指示を重く受け止めている姿勢が伝わります。
役員からの重要な指示
相手の地位にふさわしい最上級の敬意と謙虚さを示すため。
「来月の株主総会の資料確認の件、かしこまりました。今週中に整えます。」
初めての重要な依頼:
新しい仕事や責任ある任務を謹んで引き受ける姿勢を示すため。
「プロジェクトリーダーの件、かしこまりました。精一杯務めさせていただきます。」
書面やメールなど、記録に残る正式なやり取り
口頭でのカジュアルなやり取りでは「承知しました」も使えますが、メールや正式な文書など、記録として残る場面では、より丁寧な「かしこまりました」や「承知いたしました」が望ましいです。相手への敬意を強調したい場合は「かしこまりました」が有効ですが、相手との距離感や、職場の文化も考慮し、使い分けを行うことが重要です。
「かしこまりました」を使うときの注意点
「かしこまりました」は、目上の方やお客さまへの敬意を伝える上で非常に有効な表現ですが、相手との関係性や頻度を考慮して使用することが重要です。より効果的に使うための注意点を確認していきましょう。
1. 繰り返し使用を避ける
「かしこまりました」は同じやり取りの中で繰り返し使うと、かえって形式的で冷たい印象を与えたり、くどいと感じられたりする場合があります。対面や電話で何度も依頼を受ける際には、「承知いたしました」や「承知しました」など、類似の丁寧な表現と使い分けることで、自然で柔軟なコミュニケーションを心がけましょう。
2. 相手や状況に応じた使い分けを意識する
「かしこまりました」は、目上の人や顧客に対して最大限の敬意を示す、最も丁寧な承諾表現です。しかし、社内の親しい上司や、あまり格式張らないカジュアルなやり取りでは、丁寧すぎると感じられる場合があります。親しい上司・目上の方は場合によっては、「承知しました」や「承知いたしました」の方が、適度な丁寧さで自然に伝わることもあります。
3. 書き言葉ではひらがな表記を推奨
「かしこまりました」を漢字で書くと「畏まりました」となります。「畏」という漢字は「恐れる」「敬う」といった意味を持ちますが、日常的に使用される漢字ではないため、ビジネスメールや文書などの書き言葉では、ひらがなで「かしこまりました」と表記するほうが、相手にとって読みやすく、よりスムーズに意図が伝わります。
4. 単体ではなく感謝の言葉と組み合わせる
依頼や指示を受けた際に「かしこまりました」だけで返答するよりも、「ありがとうございます。かしこまりました」や、「ご指摘ありがとうございます。かしこまりました」のように、感謝やねぎらいの言葉を添えることで、より温かく、気持ちの良い印象を残すことができます。
5. 書面やメールでは具体的な対応内容を明記する
「かしこまりました」は「理解し、引き受けた」という意味ですが、メールではその後の行動を明確に伝えることで、相手に安心感と信頼感を与えることができます。「〇〇についてかしこまりました。」という表現よりも、「〇〇の件、かしこまりました。資料は本日15時までに作成し、○○様にご確認いただきます。」というように、何を、いつまでに実行するのかを具体的に記載します。
「かしこまりました」の言い換え表現
「わかりました」「理解しました」という承諾の意を伝える表現は多様であり、「かしこまりました」以外にも、以下の表現を状況に応じて使い分けることで、より豊かで正確なビジネスコミュニケーションが可能となります。
承りました
「承りました」は、「聞く」「受ける」「引き受ける」の**謙譲語「承る」**に丁寧語を付けた表現です。「謹んで要件を受けた」という意味になり、相手からの注文、依頼、伝言など、具体的な「要件」を受け付けたことを伝える際に適しています。丁寧で堅い敬語とされており、電話応対や接客などでよく使われます。
〈 例文 〉
□ お電話でのご予約、承りました。
□ 資料の変更依頼、承りました。
お受けいたします
「お受けいたします」は、「受ける」を丁寧にした「お受けする」を、さらに謙譲語「いたす」で高めた表現です。依頼や要望を謙虚な姿勢で引き受ける意思を明確に示します。特に、目上の方からの骨の折れる依頼や特別な要望に対し、責任をもって対応するという意思を丁寧に伝えたい場合に好印象を与えます。
〈 例文 〉
□ そのご要望、謹んでお受けいたします。
□ プロジェクトへの参加、お受けいたします。
引き受けました
「引き受けました」は、「依頼や任務を自分の責任として担当する」という意味を持つ「引き受ける」の丁寧語です。謙譲語ではないため、目上の方に対する敬意は上記の表現に劣りますが、責任を持って対処する意思を事務的かつ明確に伝える場面には適しています。上司や同僚とのやり取りで、業務遂行の意思をストレートに伝えたい場合に用いられます。社外の顧客や取引先、社内の上位役職者など、最大限の敬意を示す必要がある場合は
「お引き受けいたしました(いたします)」とします。
〈 例文 〉
□ このタスクは、私が引き受けました。
□ そのご要望は、私どもでお引き受けいたします。
● 「わかりました」や「了解しました」は失礼?
上記以外の「わかりました」や「了解しました」は、どちらも「理解した」という承諾の意を伝える言葉ですが、敬意の度合いが低いため、目上の方や取引先に対して使用するのは避けるべきとされています。 「わかりました」は、「理解しました」という意をフランクに伝える丁寧語ではありますが、謙譲(へりくだり)の意味が全く含まれないため、目上の方や顧客に対しては、軽すぎる印象を与えてしまい、失礼にあたる可能性があります。 「了解しました」は、内容を理解し「承認する」というニュアンスを含みます。この「認める」という響きが、目上から目下への視点と捉えられがちです。丁寧語ではありますが、目上の方に対しては避けるべき表現とされています。 「わかりました」や「了解しました」は、同僚や目下の人など親しい間柄の社内メンバーとのカジュアルなやり取りに適しています。
「かしこまりました」の意味や、「承知しました」との違い、使用する際の注意ポイントなど解説しました。「かしこまりました」という丁寧な承諾の表現は、単に「分かった」と伝えるだけでなく、「あなたの依頼を謹んで受け入れます」という強い責任感と敬意を同時に表現します。
コミュニケーションにおいて、最も重要なのは「正確に伝えること」だけでなく、「気持ちよく伝えること」です。返事一つで仕事の信頼度は測られます。「かしこまりました」は、相手に安心感を与え「この人に任せて大丈夫だ」と感じさせる魔法のフレーズといえるでしょう。日々の業務の中で意識的に使っていくことで、コミュニケーションをより円滑で、豊かなものにする一助となれば幸いです。
